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練功で健康に|太極拳で膝を痛めないための動作を身につける

はじめに

日常の不調に効果的な、太極拳の練功を紹介していくシリーズです。といっても今回は、太極拳を習っている中で出てくる、お悩みに関する内容となっております。もちろん、日常的に膝に不調を感じている方にも有効な内容です。

膝を痛めるのはなぜ?

健康のために始めた太極拳。それなのに、はじめてから膝が痛くなり結局はやめてしまうといった方、意外といらっしゃるのではないでしょうか。

なぜ膝を痛めてしまうのか。それは、体重を載せている側の膝関節が、内側または外側にブレることが原因です。

どんな運動でもそうですが、健康のために始めたのはいいものの、正しく実施しなければ、身体を痛める原因にもなりかねません。かといって、初心者が、最初から正しい動作を行うことは、難しいです。

本記事では、太極拳で膝が痛くなりやすい原因とその対応方法、さらには膝を痛めない動作を身につけるための、初心者だけではなくベテランの方にも有効な、練功方法をお伝えします。ここに示す内容は、程度の差はあれど、初心者からベテランまで多く見られます。

歩形で膝を内側に入れてしまっている

体重を載せている側の足の膝が内外にブレてしまうと(多くの場合は内側に入っています)、側面の靭帯等を痛めたり、軟骨が潰れる原因となります。

歩形、特に弓歩(ゴンブー、きゅうほ)の後ろ足や虚歩(シーブー、きょほ)の軸足で、膝が捻れて内側に入ってしまうのは、下半身の掤(ぽん)が不足しているためです。掤については、「太極拳の掤(ポン)の概念」の記事で説明しています。

歩形で掤って何?となった方、円當(えんとう)という言葉を効いたことはないでしょうか。円當とは太極拳における下半身の要訣で、床面についた足からおヘソあたり(丹田)までに、アーチ構造をつくるように立つということです。馬歩(マーブー)の形がわかりやすいのですが、馬歩とは、馬にまたがったような姿勢をいい、中国武術では多く用いられている歩形です。太極拳の站樁(たんとう)も馬歩で行います。乗馬の経験がある方はもちろんですが、経験がない方でも、馬にまたがるということは、股関節から足にかけてアーチ状の形にならないと、またがれないということは、想像しやすいと思います。アーチ状になった場合、膝の位置は、足首関節のほぼ真上に置くくらい(実際は多少内側にきます)の気持ちで、外へ向かって張りを作ります。ただし、外へ張ることをやりすぎると、今度は外側にぶれてしまうので、注意が必要です。

円當
円當

弓歩の場合も、内から外に向かって、張りを潰さないような意識が必要です。尾呂中正(びろちゅうせい)の要訣を守ると、膝を伸ばして弓歩を作ることは無理なので、太極拳の弓歩は、後ろ足の膝は若干曲がった状態になります。後ろ足の膝の位置は、後ろ脚全体をつま先側から見て、股関節と足首関節を結んだライン上に置くように気をつけます。虚歩も同様です。弓歩も虚歩も馬歩の派生であり、馬歩で作った円當を崩さずに歩形を作ります。

この円當を作れずに、弓歩、虚歩などの後ろ足の膝を内側に入れて歩形をつくると、膝を痛める原因になります。

弓歩円當
弓歩円當

方向転換の際に、膝を内側に入れてしまっている

太極拳の套路(とうろ)では、進む方向を変えるために、左右に身体の向きを変えることがあります。この際に、回転方向ではない側の足に体重を載せて回転の軸とし、体重を載せていない側の足を次の進行方向に向けるという動作を行います。

その際に、上半身の回転、すなわち太極拳的には骨盤の向きを変える際に、体重を乗せた側の軸足の股関節開閉が骨盤の回転と連動していないため、膝が内側に入ってしまうことが発生します。「骨盤を回転する」という指導を受けて、このような動作をしてしまいがちです。骨盤が回転するということは、片方の股関節が開き、逆側が閉じるという動作となるのですが、回転の終盤で股関節を開くことを止めてしまい、それでも回転が続くため、結果的に膝が内側に入ってしまいます。簡化24式太極拳では、起勢(チーシー、きせい)から野馬分鬃(イエマフェンゾン、のまぶんそう)への動作につなげる、まさに最初のところで、膝が内側に入ることが散見されます。弊会で行っている九十九式太極拳でも、単鞭(ダンヴィエン、たんべん)の際に、身体の向きを左斜め後ろ135°まで回転するので、右足の膝がうちに入りやすい場所です。

また、打勢(だせい)や単鞭などの動作の際に、後ろ足から体重を移動して最後弓歩(ゴンブー)の形になるまでの過程で、後ろ足に体重を載せたまま、骨盤回転で身体の向きを変える際に、股関節の開閉が不足して、体重の載った足の膝が内側に入ることが多いです。また、回転させる際に外足側に体重を移動させてしまい、骨盤回転軸がずれることで、膝が内側に入る力が発生してしまいます。

筋肉が疲労して、身体を支えきれず関節に負荷をかけてしまう

練習しすぎて筋肉が疲労してしまうと、筋肉で体重をささえることができず、膝などの関節に負荷をかけてしまうことがあります。無理をして、間違った動作を繰り返すことは、マイナスの学習になり、変なクセをつけかねません。休憩をはさみつつ、無理のない範囲で正しく練習することが大事です。

膝を痛めない動作とは

太極拳は虚実分明(きょうじつぶんめい)と言って、虚と実を明確に分けましょうという要訣(ようけつ)があります。虚実といっても、様々な意味を持つのですが、本記事の趣旨で言えば、体重を載せた側の足を実、体重が載っていない側の足を虚と捉えてください。この実となる側の膝を曲げる方向が、膝を痛めない動作の肝になります。その動作を行うためには、実は膝だけを気にするのではなく、股関節の動かし方も重要です。ポイントとしては以下の2点になります。

  • 体重を載せた側の膝はつま先の方向にしか曲げない
  • 股関節開閉をしっかりと行う

膝はつま先の向きにしか曲げない

人間の膝関節は、多少の遊びはあるものの、基本的に前方向(つまさき方向)にしか曲がらないような構造をしています。体重を載せた実側の足の膝関節を内側や外側に捻ると、膝関節の構造に反した力を加えることになります。具体的には足首から股関節までの脚部を前(つま先方向)から見た場合に真っ直ぐ一本の棒になっていれば、内外のブレは発生していないので、膝関節に余計な負荷をかけることはありません。逆に直線でない場合、すなわち、股関節から膝関節を結んだラインと、膝関節から足首関節を結んだラインが一直線になっていない場合は、膝を痛める曲げ方になります。

膝をうちに入れるのは、男性よりも女性に多い傾向があります。これはおそらく、女性のほうが男性よりも柔らかい関節をしているため、少しくらい横に曲がってしまっても気にならないのではないかというところと、骨盤が男性よりも広いので、片足に体重を載せる際に、骨盤の外側位置を足の外側よりも大幅に外にずらして載せてしまうことにあります。

股関節開閉をしっかりと行う

膝をつま先の向きにしか曲げないためには、股関節の動きが重要です。身体の向きを変えた際に、膝が入りやすいのは、上述したように、途中で軸足側の股関節を開くのを、止めてしまうからです。現代人は、股関節をあまり使わずに生活している(できてしまう)ため、本来もっている可動域よりもかなり少なめにしか股関節開閉を行っていないようです。これは性能ではなく習慣の問題なので、開胯(かいくわ)、すなわち股関節を開く動作に慣れれば、膝を入れないように方向転換が可能になります。

ではどうやれば、膝関節を痛めないような動作ができるようになるでしょうか。

膝を内側に入れないための練功

まずは、膝の曲げる方向の感覚を掴む練功です。骨盤から上を左右に回転させる際に、膝の前後運動を意識します。身体の正面の向きは左右概ね45°くらいまでの回転とします。その際に、いわゆるウエストを捻るのではなく、左右の股関節の開閉で骨盤から上を回転させます。左右で、股関節が開く側の膝は前に移動し、閉じる側の膝は後ろに移動します。この膝の前後運動、特に前に出した際に、身体がまだ回転しているのに膝の前進を止めると、回転慣性によって膝が内側に入ります。したがって、膝を内側に入れなくするために、身体が回り切る最後まで、膝は前に動かすことを意識して行います。正面に鏡などを置いて、膝の位置をチェックしながら行うと、わかりやすいです。膝が前に出きった際に、上から見て、足のつま先が膝に隠れて見えないようならOKです。この動作を、並歩、馬歩、弓歩の各歩形で実施します。並歩⇢馬歩⇢弓歩と難度が上がっていくので、必ずこの順番で行ってください。

並歩

両足を揃えて、膝同士をほぼ密着する距離で、膝を少し曲げ腰を落とします。この状態で左右の股関節を開閉させ、骨盤から上を回転します。上体は起こして、骨盤は丸め、踵(かかと)に体重を載せます。掌で太ももを擦(さす)るようにして、膝を床に付けに行くような気持ちで行います。足を並べているので少々窮屈ですが、その分、上体の回転も少なくなるので、膝同士が隣り合っていることもあり、膝が内側に入りにくくなります。膝を前に出した際に、体重がつま先側(拇指球)に載ってしまわないように、注意してください。拇指球(ぼしきゅう)に体重を載せて練功すると、膝の前に負荷がかかりやすくなるため、注意が必要です。

膝練功並歩
膝練功並歩

並歩は正面がわかりにくいので、横からの絵も付けておきます。

膝練功並歩横
膝練功並歩横

馬歩

両足の外側を肩くらいまで拡げて、並歩の場合と同様のことを行います。両足が離れてしまうので、並歩より膝が内側に入りやすい姿勢となります。また、並歩の場合よりも回転しやすいので、注意が必要です。最初は小さく回転しつつ、慣れてきたら回転を大きくします。大きいと言っても、胸の向きが45°くらいまでです。並歩の場合よりも、太ももの内側が引っ張られる感覚があると思います。

膝練功馬歩

弓歩

弓歩の姿勢で行う場合は、馬歩の姿勢から、片足を後ろに下げて、つま先を概ね45°外側に向けた姿勢になります。左右の足の間は一足分開けて立ちます。前足は馬歩の場合と同じですが、基本は「つま先方向に膝を出す」であり、後ろ足が斜め45°方向を向くため、膝も斜め45°方向に出します。上体は正面から、後ろ足側の真横付近(90°付近)まで回転することができます。上体が前を向いているときは、前足の股関節を閉じ、後ろ足の股関節が開き、横(後ろ足側)を向いているときは逆となります。とくに後ろ足の膝が内に入りやすくなるため、慎重に行ってください。後ろ足を鏡でチェックする際には、後ろ足つま先が鏡に向くように、鏡に向かって斜めに立ちます。後ろ足の膝は、床に刺しにいくような気持ちで動かすといいです。最初は、丹田は中定に置いたまま、体重移動を行わず、骨盤の回転のみを練習し、慣れてきたら、後ろから前、前から後ろと、回転と体重移動を連動させ、その場合も膝が内側に入らないように練習します。また、弓歩の場合は、前後の足は入れ替えて左右両方を行います。弓歩の練功で膝が入らないようになれば、野馬分鬃や摟膝拗歩(ロウシアオブー、ろうしつようほ)などの、上歩して(足を前にだして)後ろから前に体重移動しつつ骨盤を回転させる動作においても、膝が内側に入らないでできるようになります。

膝練功弓歩
膝練功弓歩(右弓歩)

この練功で鍛えられる内容

  • 膝が内側に入らないときの感覚
  • 大腿四頭筋や内転筋や、大殿筋などの臀筋群のストレッチ
  • 体軸の感覚

この練功で、膝が内側に入らない感覚を磨くとともに、大腿四頭筋や内転筋や、大殿筋などの臀筋群が鍛えられ、ストレッチされてきます。ここのストレッチが効いてくると、拗歩(ようほ)の際に上体の胸の面を、前足側の真横近くまで向けることができるようになってきます(基本練功の手法六法の動作など)。ちなみに拗歩とは、前にある手足が左右逆の状態をいいます。左右同じ側が前にある状態は順歩(じゅんほ)といいます。この練功をやるだけでも、下半身はそこそこの運動量で、体がポカポカしてきます。弊会では、寒い季節になってくると、練習の最初にやるようにしています。

股関節を開閉するための練功

次に股関節開閉の練功です。膝関節と股関節は連動して動作させるので、どちらかのみという練習はできないのですが、より股関節を意識した練功です。

体重が載っていない側の開閉

こちらは比較的簡単です。まず、両足の外側を肩幅くらいにして立ちます。やや膝を緩め腰を落とします。左右どちらか片方に、体を横スライドさせていって全体重を載せます。その際に、体重を乗せる側の股関節開閉は行いません。片足立ちでバランスを取れるように、足の上に重心を置くため、体重を載せきった際には、骨盤の側面は足の側面よりも外側になります。

股関節練功体重移動
股関節練功体重移動

浮いた側の足の股関節を意識して膝が横に行くまで(90°)開く、閉じて戻すを繰り返します。軸足側の股関節は動かさないように注意します。上体の向きは変化しません。

股関節練功虚
股関節練功虚側開

軸足を変更して、左右両方を練習します。

体重が載っている側の内容

片方に体重を載せるところまでは、体重が載っていない側の開閉と同様です。こちらの場合は、載っている側の足の股関節の開閉を繰り返します。その際には軸足の膝が内に入らないように注意します。浮かせている側の股関節は、動かさないようにします。浮いた側の足の股関節を意識して、膝が横に行くまで軸足側を開きます(90°)。上体は浮かせている側の、横方向に向きます。横に向ききった際には、軸足の踵の後ろに、浮いた足の土踏まず辺りが持ってこられ、両足がT字に配置されます。浮かせた側の股関節も動いてしまうと、T字にならないので、目安にします。

股関節練功実
股関節練功実側開

軸足を変更して、左右両方を練習します。

こちは軸足の膝が入りやすいので、膝練功と同様に、軸足の股関節がを開きながら、膝を前に出していくという動作を行ってください。軸足の股関節を閉じた際には、上体は正面に、虚の足はもとに位置に戻ってきます。

この練功で鍛えられる内容

  • 片足への体重の載せ方
  • 片足に体重を載せきった際のバランス感覚
  • 片方の股関節のみを開く感覚

体重が載っている側の股関節開閉は、膝練功で培った、股関節開閉と膝関節の前後運動の連動を行うことが必要です。そのまま膝練功にもなっているとも言えます。

現在膝を痛めてる人

医療機関に相談

現在膝の痛みを感じている方で、症状が強い場合や急性期には医師の診断を受けることを推奨します。まずは症状を抑え、回復に専念しましょう。

当面はサポーターをつけて練習

痛みや違和感はあるものの、症状が強くない場合は、膝がぶれないようにサポーターを付けて練習し、練功を行うことも視野に入れましょう。サポーターで補助しつつ、練功で感覚や必要筋力を鍛えることで、サポーターなしでも膝を痛めないようになってきます。左右のブレにたいしてしっかりと補助してくれる、次のようなタイプがおすすめです。決して無理をせずに、補助器具を使いましょう。

まとめ

太極拳を行う際に、膝を痛めないような注意点と、その練習方法について解説しました。

大事なポイントは「膝をつま先方向にしか動かさない」、「股関節開閉をしっかりと行う」です。ただ、多くの方は体の向きを変える際に、無意識に膝を内側に入れたりしているので、ご自身で気づくことは難しいです。もし、太極拳を行っていて、膝に違和感を感じるようになったら、要注意です。ここで紹介した練功を行うことによって、無意識の動作を意識的に調整していきましょう。套路を行う場合も、転身や骨盤回転の際には、膝が内に入らないように意識して行うと良いでしょう。

膝に負荷をかけてしまうのは、なにも太極拳に限った話ではなく、ダンスや球技など、あらゆる運動、スポーツで共通した課題かと思います。この練功で、膝を痛めない動かし方をマスターしていきましょう。

説明や図解だけでは、なかなかわからないと思われる方、詳しく学んでみたい方は、当会教室で体験できます(石川県金沢市、富山県高岡市)。是非お問い合わせください。

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