太極拳の掤(ポン)の概念

経験者の方でも意外に知らない掤。
簡化24式太極拳しか経験のない方は、攬雀尾(らんじゃくび)の最初の動作が掤だと教わっているかもしれません。
もしくは掤勁(ぽんけい)という言葉を聞いたことのある方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、掤というものを詳しく説明されたことは、あまり無いのではないでしょうか。

太極拳でいう掤は、二種類の意味を持っており、若干紛らわしいです。

まず第一に、広義の意味での掤。
これは、内側から外側に向かって膨張する力のことを意味しており、風船や、バランスボールなどをイメージしていただけると分かりやすいと思います。

膨張
膨張イメージ

太極拳は套路や推手をやるときに、常に体から掤の張りが途切れないようにやるのが理想です。
そして太極拳の打撃は、この張りをキープした状態で相手と接触した際に変形し、それがもとの状態に戻ろうとする力で行います。

このような、元に戻ろうとする変形を力学的には弾性変形といいます。
弓矢やパチンコなどはこの原理を用いた飛び道具です。
ちなみに、もとの形状に戻らない状態は塑性(そせい)といいます。塑性状態になってさらに変形が進むと破壊されちゃいます。

人体でこれを行っているもので、一番思い浮かべやすいのがデコピンですかね。
太極拳は全身でデコピンをする感じです。

第二に力を発する方向の掤
上記の掤の力を上方向に発することを掤(ポン)、下方向に発することを按(アン)、後ろ方向に発することを捋(リー)、前方向に発することを擠(ジー)と表現します。
この4つを四正(しせい)といいます。
掤を上方向に作用させるのが掤とか、なんだかややこしいですが、まあ、そんなもんだと思ってください。

太極拳では筋力を使った間接の曲げ伸ばし運動で力を出すわけではなく、伸びた筋肉が元の長さに戻ろうとする、筋弾性を利用して力を出します。