太極拳はなぜゆっくり動く?武術としての深い理由と驚きの健康効果を解説

はじめに

ゆっくりと舞うように動く太極拳。公園や広場で、ゆったり気持ち良さそうに動いているイメージが、一般的かと思います。「なぜあんなにスローペースなの?」「もっと速く動いたほうが運動になるのでは?」と疑問に思ったことはありませんか?

実は、太極拳の「ゆっくりとした動き」には、武術としての深い合理性と科学的な裏付けのある健康効果が隠されています。この記事では、太極拳がゆっくり動く理由と、それによって得られる驚きのメリットを解説します。

太極拳がゆっくり動く理由

太極拳は、太極「拳」という名称の通り、もともとは中国武術の一つの流派です。後年の研究により、太極拳がもつ練習体型が、健康にもよい影響を与えることがわかってきて、現在は、多くの方が健康体操として取り組まれています。太極拳の套路(とうろ)は他流はと異なり、ゆっくりと動作するのが特徴的です(ただし、陳式太極拳には、緩急のある動作が含まれた套路が多いです)。戦うための武術が、なぜあえて「ゆっくり」練習することが伝承されてきたのでしょうか。それは、ゆっくりと練習するメリットが存在しているからに他なりません。

自分の状態を「感じる」にはゆっくりうごくのがよい

武術用語で「聴勁(ちょうけい)」という言葉があります。これは相手や自分の力の流れを察知する能力のことです。太極拳では聴勁を重視しており、これを鍛える練功がいろいろと発達しています。ゆっくり動作することは、この聴勁を鍛えるのにも都合がよいのです。

熟練する前の段階で、速く動いてしまうと、自分の体の「力み」や「姿勢の崩れ」を感じることは難しく、勢いでごまかせる余地がでてきてしまいます。スロー再生のように動くことで、自分の体の隅々までセンサーを張り巡らせ、動作を調整していくことが可能になり、それが聴勁を鍛えることにも繋がります。もちろん、ゆっくり動きさえすれば、自分の状態を感じ取れるようになるとは、一概に言えませんが、素早く動くよりもハードルはかなり低くなります。

普通に見て覚えやすい

指導する側が、素早く動作してしまうと、習う側がついていけないことがあります。指導者がゆっくりと動くことで、習う側が見て真似をするということが、速く動かれるよりも簡単になります。

じつは速く動く練習もある

套路をある程度ゆっくりとした動きで行い、正しい姿勢と力の伝達を覚えた後は、スピードを上げて、同じ套路を行う練習もあります。ただし、姿勢や力の伝達が乱れてはいけません。スピードに関係なく、同じ感覚で套路ができるようにすることが目的です。これはなかなかに難しく、ゆっくりではできていたことが、スピードを上げると別の動作のようになってしまいがちです。同じ感覚で、脳のクロック周波数を速めて動作するように訓練することが重要です。

逆に、普段のゆっくりしたスピードよりも更に遅くして、じっくりと套路を練る練習もあります。要は、套路を行うときの自分の感覚を変えずに、速くもゆっくりも自在に動けるように練習するのです。

健康を目的とした太極拳では、こういった練習をあまり行われていませんが、「ゆっくり」は、あくまで「スピードに関わらず理合どおりに動ける」ための、最も効率的な基礎工事の期間で、実際に戦ったりする場合は、太極拳だって速く動きます。そうでないと普通にやられてしまいます。

もちろん套路のみならず、対人練習の推手なども、ゆっくりじっくり練習したり速く行ったりもします。

ゆっくり動く練習は慢練、速く動く練習は快練ともいいます。

ゆっくり動くことによる「3つの科学的・健康的効果」

「ゆっくり=楽な運動」と思われがちですが、実は逆です。ゆっくり動くことは、体に非常に高い負荷と良い刺激を与えます。

「スロートレーニング」による筋力アップ

筋肉博士として有名な故石井直方教授の研究、「Effects of low-intensity resistance exercise with slow movement and tonic force generation on muscular function in young men」では、ゆっくりとした動作が、高強度トレーニングと同等の筋力アップをもたらすことを科学的に証明しています。

  • 筋肉への負荷: ゆっくり動くことで、筋肉が緊張した状態が長く続き、血流が適度に制限されます。これにより、軽い負荷でも成長ホルモンが分泌されやすくなり、効率的に筋力を高めることができます。
  • 体幹(インナーマッスル)の強化: 速い動きは勢い(慣性)でごまかせますが、ゆっくり動くには常にバランスを保つ必要があり、深層筋肉が激しく働きます。

自律神経を整え、ストレスを低減

太極拳は「動禅(動く禅)」とも呼ばれます。ハーバード大学医学部のレポート「The health benefits of tai chi」によると、太極拳は心身のバランスを整える「動く瞑想」として非常に高い効果が認められています。

  • 副交感神経の活性化: 自分の状態を感じながら、無駄な力みをなくし、ゆっくり動くことで、副交感神経が活性化することがわかっています。
  • 脳のリフレッシュ: 自分の手足の指先まで意識を集中させる必要があるため、余計な雑念が消え(余計なことを考える余裕がなくなる)、マインドフルネス効果が得られます。

脳の活性化と認知機能への好影響

複雑な全身運動をゆっくりと丁寧に行うことは、脳にとって高度なタスクです。「次の動きは何か」「重心はどこにあるか」などを観察し、意識し続けることで、脳の神経ネットワークが刺激されます。ハーバード大学医学部のレポート「A sharper mind: tai chi can improve cognitive function」では、海馬の強化やストレス軽減を通じて、脳の健康維持に寄与する可能性が示唆されています。

ゆっくり動く太極拳

初心者が「ゆっくり」を味方にするコツ

初心者がゆっくり動こうとすると、逆に体がプルプルと震えたり、力んだりしてしまいます。大切なのは「放鬆(ファンソン)」です。「放鬆と脱力は違う」の記事に記載したとおり、一般的なリラックスや脱力とは少々意味が違うのですが、初心者にはわかりにくいので、注意が必要です。動作中に力んだりしてしまわない程度の、自分にとって、丁度いいスピードを、探してみるのもよいでしょう。

また、套路の場合であれば、身体の細かいパーツにまでこだわって、形を正しくなぞることを優先すると、余分な力みをなくしていけます。正しい動作は、放鬆を前提にしていますので、正しい形を再現できたときの、感覚を再現するように心がけるとよいでしょう。

まとめ

太極拳がゆっくり動くのは、「武術としての精密なコントロールを鍛える」という、極めて合理的な理由がある中で、「効率的な筋力強化」「自律神経の調整」「脳の活性化」などの副産物があります。

忙しい現代社会だからこそ、あえて時間をかけてゆっくりと、自分のココロと身体と向き合う太極拳は、究極のセルフケアと言えるかもしれません。

厚生労働省のeJIMでも、太極拳は高齢者の転倒防止や、慢性疾患のQOL(生活の質)向上に有効である可能性が示されています。激しい運動が苦手な方こそ、この「スローな動き」の恩恵を最も受けられるはずです。

説明や難解な論文では、なかなかわからないと思われる方、詳しく学んでみたい方は、当会教室で体験できます(石川県金沢市、富山県高岡市)。是非お問い合わせください。

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